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T 企業価値とは

 

@企業価値とは

企業価値とは、企業そのものの価値を「貨幣価値」で表現する過程及びその結果としての金額を指します。

 

A企業価値が注目されてきた背景

 日本の資金調達はかつて借り入れを主とした間接金融が主流でした。しかし近年、企業の差し出す担保不足や、財務内容を悪化させる間接金融頼みは見直され、企業は直接金融による資金調達を促進し始めました。M&Aの活発化も伴って、間接金融から直接金融へのシフトがおき、投資家や債権者等のステークホルダーや社会的責任を重視した経営、すなわち企業価値経営が脚光を浴びてきました。

 

 企業価値を意識した経営が注目されてきたわけですから、「何が企業価値か」、「どうすれば企業価値は上がるか」ということが注目されます。企業価値評価方法は様々ありますが、絶対というものはなく、どの手法もメリットもあればデメリットもあります。

 

 

U DCF

 

 ここからは、企業価値評価方法のひとつであり現在のトレンドで、Value Expressで使用しているDCF法についての説明です。

 

@DCF法が台頭してきた背景

企業価値評価方法には様々なものがありますが、多くの指標が、過去の結果を尺度に置いているという欠点を指摘されてきました。企業はゴーイングコンサーンとして将来に向かって進んでいくものであり、将来を見据えた指標が必要となってきます。また、売上が伸びていても資金繰りに行き詰まった黒字倒産や、採算性の悪化、在庫・設備過剰等の原因による、企業価値の低下等、問題のある企業は多くあります。近年金融機関が、企業の生み出すキャッシュフローを資金提供可否の判断材料のひとつとするケースが増加しています。このような中、必然的に将来のキャッシュフローを軸とした評価方法が注目されてきました。それが、将来生み出す収益、フリーキャッシュフロー(以下FCF)を現在価値に割り戻したものを企業価値と考えた手法、すなわちDCF法(割引キャッシュフロー法)です。

 

ADCF法のメリット、デメリット

 DCF法のメリット

    過去だけでなく将来を見据えている

    どのようなビジネスプランが企業価値を向上させるかが分かりやすい

    会計上の売上や利益等と違い、キャッシュフローというごまかしにくい指標を使用している

    「対象企業の将来を買うための判断ツール」という目的で使用できることから、M&Aにおいて使用しやすい

 

 DCF法のデメリット

    相続(税金操作を禁止するため、税務当局が決めた方法がある)や企業の清算の場面等、使用に適さない場面がある。DCF法は万能ではなく、あくまで評価方法のひとつである

    将来計画の作り方によって価値が大きく変化する

    絶対額で表されるために他社との比較がしにくい

 

BDCF法による算出方法

 DCF法で価値を算出するには、大雑把に言えば2段階の作業を要します。第一段階としてフリーキャッシュフロー(以下FCF)を算出し、第二段階でFCFを割引率(資本コスト)で割引き、企業価値を算出します。

 

B-1 第一段階:FCFの算出

 FCF=経常利益+支払利息−受取利息+減価償却費−税金−運転資本増加額−設備投資額

 

 

 

 

 

 

 

 

 


EBIT:利息払い前税引き前利益

EBITDA:利息払い前税引き前減価償却前利益

NOPAT:税引き後営業純利益

FCF:フリーキャッシュフロー、事業の生み出したキャッシュフローで、債権者や株主への期待収益の支払い源泉となる

 

FCFの算出方法は前図のとおりです。売上が増えても利益が増えなければキャッシュインは増えず、運転資本や設備投資が増えれば、キャッシュアウトが増えるため、キャッシュインは減ってしまいます。少し注意が必要なのは、キャッシュインを増やすために安易に運転資本や設備投資を減らせばよいというわけではありません。企業が事業を存続させるためには、運転資本や設備投資は必要であり、それを一切なくしてしまうことは企業の存続自体が困難になります。しかし過剰な運転資本の増加や設備投資は、キャッシュが枯渇する可能性があります。重要なのは身の丈にあった投資をすることや、投資に見合った収益を確保することです。

 

B-2 第二段階:FCFから企業(株式)価値の算出

 FCFが算出できれば次は第二段階で、将来数年分のFCFを割引率(資本コスト)で割引いて合計し事業価値を求めます。事業価値が求められたら、非営業用資産(遊休地、有価証券等の金融資産)を加算して企業価値を求め、企業価値から有利子負債を控除して株式価値を求めます。

 FCFの現在価値合計=事業価値(事業の生み出した価値)

 事業価値+非営業用資産(遊休地、有価証券等の金融資産)=企業価値(企業全体の価値)

企業価値−有利子負債(借入金、社債等)=株式価値

 

 

 

 

 

 

 

 


1 事業価値(事業が生み出した価値)は、予想した各年度のFCFを割引率(資本コスト)により現在の価値に引きなおし、合算したものです。

 

 

 

 

 

 

 

 


2 企業価値(企業全体の価値)は、非事業用資産(遊休地や有価証券等の金融資産)がある場合は、これを事業価値に加えたものです。

3 株式価値は、企業価値から他人資本である有利子負債相当額を控除したものです。

  ※Value Expressでは、決算書上「遊休地」という勘定科目は存在しないため、非営業用資産として考慮していません。ただし「投資不動産」は考慮しています。

 

C割引率(資本コスト)

割引率は、「時間価値」を考慮するために用いる、タイミングとリスクを計るための指標です(金利のようなものです)。企業が資金を調達するに当たっては、資金提供者(この場合、株主と有利子負債の出し手)に対して何らかのリターン(見返り)が必要となります。借入に対する利息や株式に対する配当がその代表です。資金提供者に対するこうしたリターンのレート(支払利息やキャピタルゲイン、配当率を考慮したもの)を割引率(資本コスト、要求収益率とも呼びます)と呼びます。

資本コストは、資金調達先により「有利子負債の出し手によるもの=負債コスト」と「株主によるもの=株主資本コスト」に大別されることから、全社の資本コストは、両者のレートの加重平均をとって算出することになります。これを「加重平均資本コスト(WACC)」と呼びます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


D企業価値の見方

最後に企業価値の見方ですが、例えば決算書を見る際に、経常利益のみを見ていればよいということはなく、経常利益の算出過程、すなわち売上や費用構造、また安定性、流動性という観点からバランスシートの内容にも注意が必要です。また、自社の分析と他社の分析では視点が異なっており、他社の分析でもどのような目的で分析するのか、相手が顧客なのか資金の貸出先なのかによって視点は異なります。大切なことは、立場や目的を念頭に置きながら全体を見て、ポイントをおさえることで、企業価値にも同様のことが言えます。

企業価値の場合大きくは、『@自社(子会社含む)の価値を見るまたは株主の立場で見る側』と、『A他社の価値を見る側』とで分かれ、さらに他社の価値を見る側も目的によりポイントは異なります。

基本的には、@の場合は、事業が順調に収益を上げているか、過剰な有利子負債等で株式価値が毀損していないかが主なポイントとなります。

Aの場合主に、『A-1新規事業に進出する際に長期的な目的で事業を買収する場合』と、『A-2傷んだ企業や、事業価値は低いが時価資産の大きい企業を買収し、その後近いうちに売却し利益を得る目的の場合』に分かれます。

A-1の場合、@と同様で事業価値や株式価値をポイントにする場合が多くあります。

A-2の場合、事業価値が小さく、非営業用資産(遊休地や金融資産)が大きい場合がポイントとなることが多くあります。非営業用資産が株式価値と有利子負債の合計である企業価値を上回っていれば(事業価値がマイナスということです)、株式を買占め、有利子負債を返済してから資産を売却しても利益が出るため、買収対象となりやすくなります。

 

Q&A

M&Aでの企業価値評価(以下バリュエーション)の位置づけ

 バリュエーションは、基本的に財務諸表を基に算出することが多いですが、これでは判明しない点もあります。簿外の資産や負債、リーガルリスク、ビジネスリスク等です。これらを明らかにするために、主に公認会計士や弁護士、コンサルタント等が実施するのが、デューデリジェンスです。

 M&Aにおいてバリュエーションは、交渉の入り口で買取(売却)価格の目安をつけるために実施することが多く、デューデリジェンスは最後の段階で買い取る企業に本当に問題がないかを確認するために実施することが多くあります。

 

FCFと会計上のCFの違い

FCFは事業の生み出したCFという意味で、会計上のCFは、現在手元にあるキャッシュ、またはすぐに換金できるものという意味です。算出過程で似ている部分もありますが、本質的には異なります。

 

DCF法に無形資産(営業権等)の価値や、有価証券や土地等の時価は考慮されているか?

 まず、無形資産の価値であるが、直接的には考慮されていないが間接的には考慮されています。DCF法は企業の将来収益、CFの現在価値を事業価値とする手法のため、B/Sにある無形資産の価値は直接的には考慮されていません。しかし無形資産に収益を生むだけの価値があると考えるなら、DCF法は収益を基に価値を算出している手法なので、間接的には考慮していることになります。

 次に有価証券や土地等の時価ですが、考慮する場合もあるし、しない場合もあります。DCF法では事業価値に非営業用資産を加算したものが企業価値であるため、非営業用資産に有価証券や土地があり、その時価が算出可能であれば、考慮することはできます。ただし、非営業用ではなく事業用であれば、無形資産と同じ解釈をとるため、直接的には考慮はされず、間接的に考慮していることになります。

Value Expressでは決算書の数値に基づいているため、決算書次第になります。

 

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